いつかの花。

「できません」


「お願い!」


「で、できませんわ……」



 なぜ私がここまで必死になって頼んでいるのかというと、様付けで呼ばれると、何やら背中のあたりがムズムズとしてくるからだった。

 着物の着方は慣れても、慣れないことというのは案外多かったりする。



「お願いお願い!」


「で、きませ、ん……」



 あと、もうひと押し。

 うろたえている湖子さんを見て、私はそう確信した。



「じゃあ、この敬語もお互いやめましょう。もちろん、二人だけの時だけでいいのだけれど……」


「う、……」


「二人だけの時くらい、敬語も尊称も無くしてほしいんだけれど……ダメ?」



 首をかしげながら、必死に湖子さんを見つめてみた。

 そわそわしながら湖子さんは視線を左右にやっている。



「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………わ、かりましたわ」

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