いつかの花。

 にこっと笑った真人お父様に促されるように、私も椅子から立ち上がる。

 そして、改めてツツミさんの方へと向き直った。



「初めまして。小野蘭花と申します。どうぞ、お見知り置きを……」



 湖子に習った、あいさつの仕方を頭の中でなぞりながら、そっと頭を下げた。

 サラリと、絹の着物が床に擦れる。

 次いで、トンッという靴が床を叩く音。



「顔をお上げなさい、蘭花殿」


「はい……」


「初めまして、ですね。私は小野堤巳と申します。一応、父上の長男ということになりますね。今後ともよろしくお願いします」


「い、いえ、こちらこそ……っ!」



 さすがは親子。

 丁寧なしゃべり方まで似ているとは……。



 また深々と礼をすると、ツツミさんは「顔をお上げなさい」、と再び言った。



「はい」



 にこりっと笑うと、にこにこと笑い返してくれた。

 いい人かもしれない。

 こんな判断基準だれど、案外アテになるものなのだ。

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