いつかの花。

 ガタッと音を立てて椅子から立ち上がった湖子に、思わず目を丸くしてしまった。

 珍しいこともある。

 ほとんどの場合、冷戦沈着な湖子が取り乱すことがあるとは。



「恥ずかしいのかい? 今度遊びに来るって確約してくれたら、黙っていてあげるよ」



 堤巳兄様からの悪魔の誘いのような甘い条件。

 湖子はすぐさま陥落し、白旗を上げた。



「お、お約束いたします……」


「交渉成立だね、いいよ」



 ……ちぇ~。

 私としては、ツマラナイことこの上ない。

 せっかく堤巳兄様から湖子のことを教えてもらえると思ったのに。

 友達と仲良くなりたいな~と思ってる女の子としては、至極当然の感情なのにぃ~!



「……聞きたかったのになぁ」


「聞かなくて結構よ!」


「あ、ちゃんと口調戻ってる! よかった~」


「……話を戻すけれど、堤巳様は朝廷で要職に就いていらっしゃるの。博識でもいらっしゃるから、中央のことを学ぶにはとっておきの先生だわ」



 スルーされた。

 けれど、湖子の話の内容の方に私の意識は行った。



 朝廷で要職。

 博識。

 家庭教師。


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