いつかの花。

 湖子に肘で脇腹を突かれ、私も慌てて頭を下げ、礼を言った。

 顔を上げてみると、堤巳兄様はまたあの『なんだか空恐ろしくなるようなにっこり笑顔』を浮かべていた。



「さあて、まずは礼儀作法からしようか。その次は朝廷の一般常識と上下左右・家柄の繋がりかな」


「ひっ……」


「手加減はしないからね。音を上げても加減なんかはしないから、しっかり付いてくるように。さて、まずは基本の礼から、そして口煩い豪族連中の前へ出ても恥じることのないような姫君になるように。蘭花ちゃん、立ちなさい。湖子殿、悪いけれど、書庫で本と書簡を多めに持って来てもらえるかな」


「かしこまりました」



 すでに采女として、颯爽と部屋から急ぎ出ていく湖子を見て、思わず腕を伸ばすものの、もちろん届くわけがなく、意味がなかった。

 恐る恐る、堤巳兄様を再び見上げると、またもやあの笑顔を浮かべていた。



「さあ、蘭花ちゃん。年が明けるまでには最低限のことは叩き込んであげるからね」


「ひぃぃっ! だれかー!!」



 私の叫びは誰にも届かず。

 いや、正確には全員に無視をされ、堤巳兄様による地獄の家庭教育を受けることになった。



 ……やっぱり兄様の性格には難がありすぎる!!



 そんな息子を育てた真人お父様を少しだけ恨めしく思ってしまった。


< 80 / 121 >

この作品をシェア

pagetop