いつかの花。

 兄様のにっこり笑顔。

 これ以上に恐ろしいものなんて、私は知らない。

 知りたくもない。



「も、もういですいいです十分です!」



 強いものには逆らうな。

 長いものにはとりあえず巻かれとけ。



 本能のままに、私はタジタジと後ずさりながら両手をふるふると振った。

 あの恐怖の家庭教育を思い出すと、鳥肌や悪寒だけでなく、本気で気を失いたくなってしまう。



「ところで、すぱるたとは何だい?」


「……言わなくちゃだめですか?」


「宿題増やされるのとどちらがいいかい?」


「……スパルタというのは、私の故郷の言葉の一つです。厳しい指導のことをそう形容するんです」


「たとえば?」


「獅子は崖から子を突き落として、上って来た子だけを育てる、とか。食事を抜いたりしながら勉強させる、とか」


「ああ、それいいね。やってみようか」


「やめてくださいっ!!」



 私は本気で拒否した。



 そんなことになったら、ただでさえご飯が少ないのに、栄養失調になって死んでしまう!


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