いつかの花。

「漢皇子様だよ。けど、彼は皇極様の前夫であらせられる高向王様との間にお生まれになった御方だったんだがね」



 あやのみこさま。

 たかむくおうさま。



 漢皇子様は、堤巳兄様と同い年の、現天皇の御長子。

 けれど、下の御三方とは異父兄弟となる御方。



 ……理由はわからないけれど、なんとなく、だけれど……。

 漢皇子様が今もお元気でいらっしゃるといいな。



 そう思ってしまった。



「そうなんですか……。では、今の天皇家は、他にどなたがいらっしゃるのですか?」


「一口に天皇家と言っても、さまざまなかたがいらっしゃってね」



 そこまで言うと、堤巳兄様は疲れたように、一度、ふうっと息を吐いた。



「堤巳様、お飲み物を……」


「ああ、ありがとう。湖子殿」



 堤巳兄様は湖子がスッと差し出した水の入ったコップを手に受け、ゴクッと飲んだ。

 ついでとばかりに私にもコップを渡された。



 あ、水でも美味しい。

 ジュースなどの化学なんたらかんたらやら調味料やらがなくても、水は水というだけで、ものすごく美味しい。



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