いつかの花。

「さて」



 コツン、と中身を飲み終えたコップを机に置き、堤巳兄様は再び口を開いた。

 真剣な目に、私も持っていたコップを机へと置く。



「どこまで言ったかな」


「今の天皇家について、です」


「ああ、そうだったね」



 何かを思案するように、しばし黙った兄様は、すぐにまた話を始めた。



「今の天皇、皇極様は蘇我入鹿殿の言いなりになっている節が多い」


「そがのいるか……」



 その人も、知ってる。

 だって……大化の改新で、殺された人だから。



「蘇我入鹿というのは、蘇我蝦夷殿の息子だ。蘇我氏というのは、今最も有力な豪族と言っても過言ではない」



 そがのえみし。



 その人も……大化の改新でなくなったという人だったはず。



 たくさん……たくさんの命が、失われたクーデター。

 その彼らがまだ生きている、ということは、まだ大化の改新は行われていない、ということ。



 つまり、今はまだ六百四十五年ではない。


< 95 / 121 >

この作品をシェア

pagetop