いつかの花。
「さて」
コツン、と中身を飲み終えたコップを机に置き、堤巳兄様は再び口を開いた。
真剣な目に、私も持っていたコップを机へと置く。
「どこまで言ったかな」
「今の天皇家について、です」
「ああ、そうだったね」
何かを思案するように、しばし黙った兄様は、すぐにまた話を始めた。
「今の天皇、皇極様は蘇我入鹿殿の言いなりになっている節が多い」
「そがのいるか……」
その人も、知ってる。
だって……大化の改新で、殺された人だから。
「蘇我入鹿というのは、蘇我蝦夷殿の息子だ。蘇我氏というのは、今最も有力な豪族と言っても過言ではない」
そがのえみし。
その人も……大化の改新でなくなったという人だったはず。
たくさん……たくさんの命が、失われたクーデター。
その彼らがまだ生きている、ということは、まだ大化の改新は行われていない、ということ。
つまり、今はまだ六百四十五年ではない。