始まりと終わりの間
隆也の車には、アタシの忘れ物がいつもある。

助手席の小物入れに入れたままの、片方だけのピアスだ。

「梓、今日こそ忘れるなよ?片方だけじゃ着けられないだろ?」

「ああ…もう片方も無くしちゃったから捨てといて」

シンプルだけど色が気に入って買ったピアス。

隆也に『似合うよ』って言われたピアス。

なくするわけがない。

「梓…ちょっと停めるぞ」

路肩に車を寄せた。

「どうしたの?」

「ついてきてる」

後ろを見ると、さっきの車がいた。

「あのチャラ男!言ってくる!」

「やめろ!お前も考えろよ。相手は男だぞ」

チャラ男を一発ブン殴ってやりたかった。
せっかく隆也といるのに邪魔しやがって!

「このままだと、あの男に家の場所を突き止められるかも…」

家まで送るというのを断った事を話したら、わかったと言って車を出した。

「どこ行くの?」

「このまま帰れないじゃん、チャラ男まだいるし…」

Uターンして、アタシの家と逆方向に向かった。
そっちは隆也の家の方だ。

「待って…隆也のお母さんに迷惑かけれないよ」

「は?ああ…そっか…俺家出たんだよ。一人暮らししたんだ」

もう半年になると言う。

アタシが先に一人暮らしを始めた時、隆也に引っ越しの手伝いをしてもらった。

その数ヵ月後に隆也も一人暮らししてたなんて…
聞いてなかった。

「悪い、言ってなかったよな」

「別に謝る事ないじゃん」

そうは言っても、やっぱり一言欲しかった…

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