マスカラぱんだ


**葵**


僕は、君からもらった手紙を大事にした。

君からのお礼の言葉を読み返すだけで、心が温まるのを感じる。

初めて会ったパンダの君。

痛いと泣きながら搬送された君。

そして数回だったけれど、あの特別室で一緒に過ごした時間と、僕に見せてくれた君の笑顔。

どれを思い出しても、君へのこの想いはすぐには消せそうにないと自覚した。

でも僕は、間違っても君に会いたいなどと、思ってはいけない。

だって僕は、お見合いをするから。


そんな僕が、君に会いたいと願う資格はない。

それにきっとこの縁談も、病院にとってプラスになる話のはずだ。

だったら断る理由なんて、僕にはないと思えた。

それに僕もいい歳だし。

だから僕は君への気持ちに蓋をして、手紙と一緒に引き出しの一番奥に・・・しまい込んだ。


< 102 / 258 >

この作品をシェア

pagetop