マスカラぱんだ


先生が心配そうに私に声を掛けてくれたけど、素直になれない自分がいた。

だって、お見合い相手のあの人のことは『瞳さん』って、名前で呼んでいたくせに、私は名字。

先生との距離を改めて感じた私は、碧の服の裾を思わずギュッと握ってしまった。

そんな私の気持ちを察してくれた碧は、先生に向かって話を始める。


「兄貴。俺達これからホテルでアレだから。な?紫乃?」


え?アレ?紫乃?何?これ。


「な?紫乃?」

「え?あっ。うん。」


二回、自分の名前を碧に言われて、ようやく電車の中での会話を思い出す。

そうだ、私。碧に言われたことには『うん』って返事しなくちゃいけなかったんだ!

そんな焦り気味の私の耳に飛び込んで来たのは、悲しげな先生の声。


「福田さん。この前、碧に無理矢理・・・。嫌だったんじゃないのか?」


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