マスカラぱんだ
**葵**
え?何を言っている?
君が突然、言い出した話が僕にはよく理解出来なかった。
だって僕は別に、瞳さんを好きじゃないし。
結婚話を断った理由は、やっぱり君が好きな気持ちを抑え切れなかったからで。
それより、なんで君が僕に『紫乃』って、呼ばれたいんだ?
僕はいつだって、君を名前で呼びたいのを我慢していたくらいなのに。
それに今日だって碧が君を『紫乃』って、呼びつけにするのが気に入らなかった。
我慢していたのは、僕の方だ!
ひとりで自問自答を繰り返していると、君はいきなりソファから立ち上がり、ドアに向かって走り出す。
どこに行く?
このまま、君を帰せる訳ないだろう?
「待つんだ!帰さないよ!」
僕は君の白い手首を掴むと、そのまま胸の中に抱き寄せた。
抵抗されようが構わないと思った。
ただ、僕は君を離したくない・・・。