マスカラぱんだ


「痛い?我慢しなくていいんだよ。お腹を切ったから痛いのは当たり前なんだ。痛み止めの薬を出すから。待っていて。」


可哀想に。我慢しないですぐに痛いと、ナースコールをすれば良かったのに。

遠慮がちな彼女の態度に胸を痛めながら、病室を後にしようとした時だった。

彼女に背中を向ける僕の白衣の裾を、握られていたのに気が付いたのは。


「あの、お兄さんはお医者様?なんですか?」


彼女はまだ瞳を揺らしながら、小さな声で僕にそう尋ねる。

ああ、そうか。

彼女は痛みで、僕なんか憶えていないか。


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