マスカラぱんだ
「僕は山中葵。ちなみに福田さんの手術をしたのはこの僕だから。」
「ええ?!お兄さんが?私の手術を?」
「そうだよ。聞いたかな?急性虫垂炎だって。」
彼女はコクリと頷いた。まだ顔色が良くない。
かなり我慢した状態だったからな。
救急車で運ばれて来た、彼女の姿を思い出す。
またあんな風に痛がる彼女を見るのは、もう嫌だった。
そして涙を流す彼女を見るのも嫌。
だから僕は出しゃばって、彼女の手術をするはずだった新人の鈴木から仕事を奪ってしまった。
あの時の僕はただ早く、彼女の痛みと涙を止めて上げたい一心だった。
「とにかくすぐに、看護師を寄こすから。いいかい?」
「はい。先生?あの。今何時ですか?」
そうか。時計がないのか。