君色デイズ
そしてそのまま、未だ呆然とするあたしの腕を引いて、ヨシ姉は大きく立派なドアの前へとやって来た。2回程大きく深呼吸した彼女は、ゆっくりとあたしの方へ振り返る。
「……いい?ユリちゃん。今から、旦那様にご挨拶するのよ?」
「え、……うん、わかった。」
いきなり?とは思ったけれど、確かにタクシー内でそんなことを言っていたっけ。
ヨシ姉が3回ドアをノックするのを見ながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「柿崎です。私が推薦いたしました、前田を連れてまいりました。」
「……入れ。」
低く、よく通る声がドア越しに響く。
ゆっくりと開けられたドア、ヨシ姉に続いて一礼して室内に入れば、広い書斎の豪華な椅子に腰掛ける、いかにも金持ちそうな中年の男性の姿があった。
「失礼します、旦那様。こちらが先日お話し致しました、前田友梨江でございます。」
「前田友梨江です。この度はこちらで働かせていただけることになり、光栄です。」
ヨシ姉に肘を突かれ、慣れない敬語で必死に言葉を紡げば、刹那、旦那様は意外にも柔らかな笑みを湛えた。