君色デイズ
「はぁ、緊張した…。」
「何で? 凄い温和そうな人だったから、あたし安心したよ。」
本当に緊張していたらしいヨシ姉にそう言えば、胸に右手をそえながら、ヨシ姉の視線はあたしに向けられる。
そして刹那、まるで何もわかってないとでもいうように、ヨシ姉は再びため息をついた。
「ダメよ、ユリちゃん。確かに温和で優しいお方だけど、それは今だけ。景雅様やお仕事関係の人達にはスッゴく厳しいし、私達の仕事ぶりも地味にしっかりとチェックされてるんだから。」
だから、旦那様にお会いするときは妙に緊張するの。
そう言い足したヨシ姉に続き、あたし達も書斎から出る。そしてそのままヨシ姉がどんどんお屋敷の中に進んで行くのについていきながら、飾られている装飾品を眺めた。
きっと、そこらの小さな美術館より凄いかもしれない。そのくらいの品々が、至る所に飾られている。
「……こういうのの手入れや掃除も、私達の仕事だからね。」
キョロキョロとあたりを見渡しながら歩くあたしに、前方から飛んできたヨシ姉の声。
もし万が一壊したりなんかしてしまったら、あたしには一生かかっても弁償なんてできないのだろうと、苦笑とともに冷や汗が背筋を伝った。