君色デイズ

「…景雅様?」


…え、何でこんな時間にこんなところに。

暗闇の庭園、そこに独り佇んでいたのは他でもない景雅様だった。
普段彼が見せている凛とした表情とは打って変わって、儚く消えていきそうな、ひどく寂しげで哀しげな瞳。

別に何をするわけでもなく夜空を見上げて、そんな憂いを帯びた表情の彼に、声なんてかけることはできなかった。

まぁそれ依然に、あたしが気安く声をかけていいような相手ではないのだろうけど。

息をひそめたまましばらくそのまま景雅様を見つめる。
今の状況、明らかにあたしの方が不審者だよなー、うん。そんな不審者のようなあたしに気が付くことなく、景雅様は小さく息を吐いて、静かに屋敷へと戻っていった。

でも、どうしたのだろう。
ほとんど関わりのないあたしにだってわかるくらい、今の景雅様は変だった。
でもあたしは一端の使用人、しかも認識されてるかどうかも危ういっていうのにどうこう出来ることじゃないとも思えて、あたしも自分の宿舎へと戻った。
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