君色デイズ

賑わう駅前は、相変わらず人が多い。
絶え間無く耳を刺激する喧騒に、頭が痛くなる。

…――久しぶりの外出は体に毒だな。

連日バイト先と家の往復しかしていなかったあたしにとって、最早駅前は別世界のようだった。


「……そういえばユリちゃん、勤め先がどんなお宅か、とか知ってるんだっけ?」

「ううん、何にも。」

「あ、やっぱりそっか。…なら行く前に少しだけでも説明しとくね。」


駅から少し遠ざかり、さっき乗ってきたまま待たせていたのであろうタクシーに乗り込むヨシ姉。

それに続きながら、紡がれるヨシ姉の言葉に耳を傾ける。


「まず、旦那様のお名前が桐生雅宗(きりゅう まさむね)様。彼が今の桐生財閥の大黒柱。着いたらすぐに挨拶に行くけれど、くれぐれも、失礼のないようにしてね。」


桐生、雅宗様……か。

くれぐれも、を妙に強調して言ったヨシ姉に頷き、話の続きを促した。
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