君色デイズ
「…聞いていたのならわかるでしょう。あたしは使用人です。それ以上でも以下でもない。」


ゆっくり一歩ずつ、景雅様に近づく。
景雅様が選んでくださった水色のドレスが歩みに合わせて揺れる。

景雅様の目の前で、しっかりと彼の瞳を見上げた。ちゃんと、伝えなければいけない。あたしは、これ以上望んではいけない。


「景雅様とお付き合いするわけにはまいりません。」


だからあたしは、残酷な言葉で彼を突き放す。
自分自身の気持ちにも嘘をついて。

あたしの言葉に、一瞬だけ景雅様の瞳は揺らいだけれど。それは本当に一瞬で、すぐにいつもの表情に戻り、口を開く。


「この際、使用人とかそんなのはどうでもいいんだよ。前田は使用人である前に、1人の女じゃねぇか。ずっと使用人に縛られる必要なんて、」

「お気持ちは嬉しいです。ですが、受け取れません。」


でも、最後まで聞いていられなくて。彼の言葉を遮るようにそう強気で言い放った。そんな言葉、あたしに向けないで。ぎゅっと締め付けられる胸が苦しい。
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