夜獣-Stairway to the clown-
ここにいたところでさらなる混乱を迎えそうだ。

寝室から持ってきたカバンと共に、リビングから立ち去ろうとする。

「ちょっと待ちなよ!」

通り過ぎようとした僕の腕をアキラの腕が掴んでいた。

「あんた、あの事件と関係あるの?」

”あの事件”といえば、一つしかない。

すでに事件のことまで感づき始めたのだろうか。

「あの事件って何?」

例え能力に目覚めていたとしても、このことは話せない。

実の姉を危ない目に合わしてまで得るものはない。

「何も気づかないとでも思ってる?」

どんどんとアキラの目が鋭くなっていき、能力を覚醒させ紅い目に変化する。

アキラの能力はすばやさではあるけど、紅目になった瞬間は握る強さまで強くなったのかと錯覚する。

こんな短期間にそれほど驚きが隠せない。

「あんたが犯人探しやってるのはすでにお見通しだよ。昨日の夜出て行ったので分かったよ」

そこまで気づかれていたのか。

姉弟だけはあると思いながらもシラは切りとおさなければならない。

「何の、こと?」

「まだとぼけるの?」

「とぼけちゃいないよ。知らないものは知らないんだ」

自分の頬を伝わる汗が妙に冷たかった。

「あんたねえ、知らないフリはないんじゃない?そこまでワタシに知られたくないわけ?」

ここまで知られた以上、話してもいいんじゃないかと内心思い始めていた。

ぐっと我慢をすると同時に僕はアキラの手を振り払う。

「悪い、知らないことがいいことだって世の中にはあるんだ」

アキラの顔を見ないまま、横を通り過ぎていく。

後ろめたい気分になりながらも、家から学校へと向かうことになった。
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