夜獣-Stairway to the clown-
「何でこうも鋭いんだ」

学校に向かう途中で独り言をいいながら歩いていた。

秋だというのに汗が止まらない。

暑いせいではない。

「アキラの奴が影からついてくるなんてことはないだろうけど」

アキラがついてきてるんじゃないかとそーっと後ろを見るが姿はなかった。

「さすがにそれはないな」

また前を向いて歩き始める。

「それよりも、厳しい状況になってきたな」

3人も人が死んだとなると、ただ事ではないということだ。

1人の場合でもただ事ではないのだが、今回はホームレスだけではなさそうである。

「今日も雪坂に相談しなくちゃならないようだ」

心が急がせるのか、歩いていたが走ることにした。

走っている途中、誰とも会うことは無かった。

今にして思うが、夕子と会っていたのも奇跡に近かったんじゃないかと思う。

故意でなければ、今の状況が続いていたわけである。

今日に限って夕子のことを考えるなんて嫌な予感がする。

この半年考えないようにしてきたのに、何故出てくるのか。

妙な胸騒ぎがし始めたと同時に学校へとたどり着いていた。

いつもなら疲れる道なのだけど考え事をしているせいか、意外と体力が減っていないことに気づく。

最近、走っていたおかげで鍛えられたなんて楽観的な考えを持ち合わせるけど、本当は焦っている。

「今日は考えに集中しすぎてリムジンを見るのを忘れてた!」

靴箱に片手をつきながら、やってしまったと頭を逆側の片手でおさえる。

時間に余裕はあったのだが戻る気はしない。

雪坂がいることだけを願いつつも自分の教室へと向かった。

教室に行く途中に、夕子が一人だけで窓の外を見ていた。

(乾はどうしたんだろう)

そちらを向きながら歩いていると、前から来ていたほかの男子学生とぶつかった。

「あっと、悪い」

男子学生もそんなに気にしてないようで、向こうからも謝ってくれる。

間が悪いというか、夕子がそれに気づいたようでこちらを見ている。
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