夜獣-Stairway to the clown-
「ゆ、夕子。元気か?」

見るからに元気そうな顔はしていない。

沈んだ顔でこちらを見ていた。

「うん。まあ、ね」

「そうか」

半年も経ってしまうと何か他人っぽい部分が出来てしまうものなのだろうか。

会話が思いつかないことにそう感じてしまう。

「乾とはどうなんだ?」

「はあ」

”乾”という単語を聞いた直後に嘆息する。

「上手くいってないのか?」

「そんなことないよ」

口ではそういっているけど、表情は嘘をつけないようだ。

昔から夕子は嘘をつくのが下手で、すぐに表情に答えが出る。

それなりに元気で笑顔な夕子がこうだと少し心配になってくる。

「夕子みたいな奴が嫌われるわけ無いと思うぞ」

「ありがとう」

感謝の言葉も意味を成さないくらいに声に張りがない。

「何があったか聞いていいか?」

気になることは聞いておきたい性分だと自分で再確認した。

僕と夕子の中途半端な関係ならば聞くことは控えたかもしれない。

「別に、何ともないよ。何とも」

二度繰り返すぐらい何ともないということは逆に自然消滅でもしてしまうんじゃないのだろうか。

「今日、乾は来てるのか?」

「ううん、来てない、昨日も一昨日もここ一週間ずっと」

「連絡は?」

「取れない」

言葉が妙に重く感じるのは気のせいだろうか。

「いつからだ?」

「三週間前ぐらいだと思う」

「最後に来たのは一週間前なのに、三週間も連絡が取れないってどういう意味だ?」

段々とわけがわからなくなってきた。

「学校に来てもね、私と話しても何か考え込んでるようで相槌とか適当に答えてるようにしか思えなかったんだ」

明らかに嫌いになったような雰囲気丸分かりじゃないか。
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