夜獣-Stairway to the clown-
「頭を抱えているというのに、思いつきで発言するなんて気楽すぎます」

物腰の穏やかな雪坂が少しイラつきを見せている。

自分が蒔いた種だと責任を感じているのだろうか。

「そういうつもりじゃなかったんだ。閃きが出ればいいなと思ってちょっと言ってみたかったんだよ」

鋭い目をこちらに向けていたものの一旦目を瞑り、再度開けたときにはいつもの優しい目に戻っていた。

「いいです。こちらこそ申し訳ございません。能力者のことで少し煮詰めすぎました。あなたの気持ちはありがたく頂きます」

「普通の出来事じゃない。二日連続なんて常人ではやらない、出来ないことだ。どうにかして見つけて止めさせないとな。で、今夜はどうする?」

「すぐにでも探しに行きたいところですが何分人が多いですから、夜に学校で落ち合いましょう」

「昨日みたいなことにならないようにしないと、雪坂にまた苦労かけてしまいそうだ」

「ふふ、それくらいの苦労なら気にはなりません」

会話が一段落ついたところで、クラスメイトがちらほらと見え始める。

中には荒川の姿も見えていた。


一限、二限と過ぎていき、夜まで他の行動をとる気にはならなかった。

休み時間や昼休みさえ、何もせずに席に座っているだけだ。

昼休みに姿のなかった雪坂はいつもの場所へと赴いているのだろう。

6限までの授業が終わると、夜まで待つために家に帰ろうと教室から出ると、向こうのほうに焦っている様子の夕子の姿があった。

(やっぱ乾を探しに行くのか)

夕子の背中に嫌な感じを受けると、意地でもついていかなければならないような気がしてならない。

夜まで時間があったので、悪いとは思いつつも夕子の後でも付けてみることにした。

(夕子のことだから、そう簡単に見つかることもないだろう)

見逃しそうになったので、目を離さずにいつの間にやら学校の校門まできていた。

校門から出ると夕子は家の方向とは逆の道を走っていく。

壁や木などに隠れながらも一定間隔の距離を置きながらついていく。

(一体どこへ向かうつもりなんだ?)

夕子は周りを見ながらも、どこか行く場所でも決めているかのように進んでいく。
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