夜獣-Stairway to the clown-
いつそんなことをしたのかはわからない、見えなかった。

「う、うげえ!」

男は片腕に驚きながらも、痛みで声にならない声を出しながら両膝を地面につく。

「何すん!」

最後の声を出す前に、近づいていたアキラが僕の上に乗っている男が振り向いた瞬間に、顔面の真ん中に拳が決めていた。

男は三メートルぐらい後方に飛んでいく。

気絶したのか、そのまま動かなくなってしまった。

「アタタ、やっぱり人を殴るのはこっちも痛いんだ」

手首をブラブラさせながら、痛そうなのをアピールする。

アキラにやられた二人はすでに戦うことが出来ない。

もう一人を見てみると、桜子ちゃんにいつの間にかナイフを突きつけている。

「お前、何やってくれてんだ?ああ?」

桜子ちゃんの頬にナイフの刃が触れており、後数センチ動けば頬が切れる。

「男だから怪我なんて当たり前じゃないの?そんなに怒らない」

「はあ?なめたこといってると、コイツが外出れねえような面にしてやる」

桜子ちゃんはガタガタ震えながら、ナイフとこちらを交互に見ている。

混乱して参ってるに違いないだろう。

「ふうん、あっそ。いいよ」

アキラは特にそれを気にしてる風でもなく、軽くいいのけてしまった。

「は?」

「この際あんたをぶっ飛ばすのは変わりないからねえ。やることやっとかないと後悔するかもね」

問いに答えるのに面倒なのか、うんざりしたような顔になっている。

「や、やったらあ!」

男が何もやっても無駄だと思って諦めたのか、気が動転したのか、刃を桜子ちゃんの頬にさらに近づけようとする。

その瞬間、アキラの目つきが歪んだかと思うと男の悲鳴が聞こえた。

悲鳴のほうを見てみると、男は地面に倒れている。

男が立ち上がらない内に僕は桜子ちゃんのほうへ走っていく。

そして、肩に手を置くと、ガタガタと体が止まらないくらいに揺れている。

「大丈夫か?」

聞いてみると小さく頷くだけであったが、今はそれだけでも十分だった。

そういえば、倒れた男はどうなったのかと思い下を見てみる。

額から血を流して、白目をむいている。

(何が起こったんだ?)

しかし、それを考える前にすることがある。
< 48 / 121 >

この作品をシェア

pagetop