夜獣-Stairway to the clown-
「もしもし、どちら様でしょうか?」

「夕子か、耕一だ」

「コウ?どうしたの?」

「悪い。公園まで来てくれないか?」

「え?なんで?」

「桜子ちゃんを迎えに来てほしいんだよ」

「家に帰ってないと思ったら、そこにいるの?」

「ああ、ちょっと緊急事態でな。早めに頼む」

「う、うん」

電話を切り、待つこと5分。

向こうから人影が走ってくるので、それが夕子だろうとすぐにわかった。

男に目をやって少々びびりながらも、こちらに歩いてくる。

ベンチの前までくると桜子ちゃんの様子がおかしいことがわかったらしく急に心配そうな顔になる。

「桜子、どうしたの?」

うつむいたままで何も応えることができそうにない。

代わりに僕が事情を話すと、どんどん顔の色が悪くなる。

桜子ちゃんよりも夕子の方が顔色が悪いんじゃないかと思う。

「お前、大丈夫か?」

「うん。そんなことがあったなんて」

どうしたらいいのか夕子にでさえわからないようだ。

「あのさあ、とにかく連れて帰ってやりなよ。こんなところにあんまいたくもないだろうから」

解決策を見出せないでいると、アキラが横から口を挟む。

「アキラ姉ちゃん」

夕子は昔からアキラのことをアキラ姉ちゃんと呼んでいる。

そう呼んでいるのは夕子のみぐらいだろう。

「夕子ちゃんとは久々でのんびり話しもしたいけど、そんな場合でもないしね」

アキラは桜子ちゃんの肩を持ち、ゆっくりと立ち上がらせる。

そして、夕子のもとまで歩かせる。

「とりあえず、家に帰って休ませてやってよ」

アキラも心配そうな顔をしながらも、淡々と言う。

「う、うん」

桜子ちゃんと夕子はトボトボとゆっくり帰っていく。

その後ろ姿をずっと眺めながら、この場には5人になってしまった。

三人は気絶してしまって一人は逃げた。

そういえば、病院までそれなりの距離があったはずだなので、多少時間がかかている。

< 50 / 121 >

この作品をシェア

pagetop