夜獣-Stairway to the clown-
「どうだった?」

「ちょっと痛めただけだとさ。それでもあまり右手は使わないようにだって」

「軽くて良かったな」

「あんたよりもあたしの方がひどかったりして」

「そうかも」

紅い目がこちらを見ているということはスイッチが切れてない。

未だに気づかないのは普段から鏡を見ていないのかもしれない。

「何?」

「さっきも聞いたけど、疲れてない?」

「さっきから気持ち悪いな、本当に何なの?」

「だからなあ」

必死になって、鏡のある場所を考えた。

そういえば、確実に一つある場所があった。

「一回トイレで鏡見てこいよ。話が出来るのはそこからだ」

「えー、面倒くさいな」

「たまには弟の言うこと素直に聞いてくれ」

アキラの背中を押して、さっさと行くように促す。

ブツブツいいながら近くのトイレに入っていくと、病院には似合わない大きな声が聞こえてくる。

僕のほかにもその声の方向が気になったのが、声の出所を向いていた。

数秒が立つと、足音とともに近づいてくる人物が一名いる。

走っていることを途中で看護婦に怒られ、謝りながらも急いで来る。

「何が、どうなってるの?」

僕の肩を掴み、ブンブンと前後に振るう。

振るわれることによって、僕の傷がかなり痛む。

アキラでもこんな状況には焦ることもあったのかと、物凄く実感できる。

「少しは落ち着けよ」

揺らし続ける両腕を掴み、揺らすのを止めさせる。

「紅いなんてレンズも入れてるわけじゃないし」

最初に行き着く思考は僕と同じなのか。

「どうしよう!ちょっと有名人になっちゃう!」

それはそれで面倒なことになりそうだ。

叫び続けるアキラの声を迷惑そうに視線をやる他の患者さん達。

少し恥ずかしい気持ちになり、不良たち三人の容態を聞く前に病院から去る。

もちろん、アキラの分の治療費は払っておいた。

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