夜獣-Stairway to the clown-
校門までくるとチャイムが校内を埋め尽くすように鳴っている。

授業がもうすぐ始まろうとしているけど、今日は勘弁してもらいたい。

校門前にはリムジンの姿はない。

帰り道の途中で、ちょっとした抵抗を感じた。

「ちょ!ちょっと!待っていただけませんか!?」

腕を必死に振り解こうとするが、そうはさせまいと引っ張っていく。

出来るだけ早く家に連れていきたかった。

走っていたおかげで、家にはすぐについた。

玄関の鍵は無用心にも開けていたので、すぐ入ることが出来た。

家なので靴を脱ぎ、二階へと駆け上がっていく。

部屋のドアを開ければ、さっきと変わらない姿勢でアキラが寝込んでいる。

雪坂も気づいたようで、顔つきが険しくなっている。

「血流が速いですね」

僕の腕から離れ、すばやくアキラの傍に早足で歩いていく。

ベッドの近くに座りアキラの腕を取る。

確かめるように様子を見て、時間を少し置き腕を置く。

「覚醒したまま時間が経ちすぎてます」

アキラのほうを向いたままで説明する。

何も聞いてはいないけど、僕の聞きたいことが解っていたかのようだ。

「このままの状態ならばもって今日まで、心停止を起こします」

「な、なんで?」

「力の流れは、心臓から送り出される血液中に含まれる物質の速さを示します。物質は人間には存在しません。それで流れが安定せずに速いままであれば、送り出す心臓が疲労しきって止まります」

「物質を出すにも労力が必要になるわけか」

「物質の出す量を抑えながら力を使わなければ心臓は疲労します」

「アキラの場合ずっと物質を高速で出し続けたおかげで、危篤状態になってしまったのか」

「物質を出しているという状態が紅い目に変貌させます」

「それを断つにはどうすればいいの?」

「軽度の状態ならイメージだけでいいです。重度ならイメージともう一つ必要なものがあります」

「イメージ?」

「そちらは簡単に済みます。ええっと」

「アキラ」

アキラも僕達が帰ってきたことで起きたようだ。

「アキラさん、まずは目をつむってください」

素直に目をつむる。
< 59 / 121 >

この作品をシェア

pagetop