夜獣-Stairway to the clown-
その後も無難で済んでいくのだが、ふと一人目に留まる人物がいる。

髪はストレートで腰当たりまであり、後ろも前も毛先が揃っている。

とても古風な印象を与える。

落ち着いた雰囲気があるので、大人びて見えるのも気のせいでもないだろう。

今更そんな髪型はをやる奴はいるとは思えないが、個性があるので良しとしよう。

「雪坂渚といいます。弓道を嗜んでおります。以後よしなに」

しゃべり方も古風ではあるが、どこかの屋敷のお嬢様だろうという考えも容易に思いつく。

(何でお嬢様がこんな学校に?)

そんな考えを巡らしていると、すでに自己紹介は終わっていた。

その後は何もやることがなくなったのか、親に渡すプリントが3枚ほど前から回されてくる。

プリントなど見る気も起こらず、ファイルにそそくさと収めていく。

「あー、やっと終わったか」

一日で明日の分も疲れた勢いで席を立つことになった。

教室から出ると他の教室のホームルームも終わったのか、ゾロゾロと出てくる。

3組からも夕子の姿が現れる。

夕子はこちらに気づいたものの、無視するかのごとくそのまま歩いていく。

無視する必要があるのかどうか検討したが、全くないということが答えだった。

一人で歩いていく夕子の後ろを追いかけることとなった。

靴箱から校門まで早足で出て行き、帰り道の公園まで差し掛かったところで呼び止める。

「おい、何で逃げるんだ?」

腕をつかむと、やっとこちらを振り向く。

いつもと変わらない、平常な顔をしていたことには意外だった。

「幼馴染だって毎回一緒に帰るなんてこともしなくていいでしょ?」

朝との矛盾がある態度だった。

朝から帰りまでの間に何かあったのかと思いながら、考えてみたらそれなりの答えはすぐに浮かんだ。

「気に入った男でも見つけたんだろ?」

「え」

なんで解ったのかというような顔をしていた。
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