夜獣-Stairway to the clown-
今日もその場所に僕と雪坂はいる。

雪坂は相変わらず樹の上で空を見ながらぼーっとしている。

僕は樹の根元で座り込み、雪坂を眺めている。

視線に気づく様子はなく、空に何か必要なものがあるのかと思うくらいだ。

毎日空ばかり見て飽きないのか。

最初であった時は驚くこと以外何もしなかった。

『この樹よりも長く生きていたらどうします?』

なんて言われても真実味がなく、冗談としか思えない。

ちょっといっちゃってるのかなくらいだ。

あの後の説明で知ることができたことが幾つかあり、事実だと信じるしかなかった。

血族という一族でまとめ上げられ、妙な能力まで身に着けているすさまじい人間とは言いがたいもの。

見た目が人間というだけで、他人から見れば否定されるに違いない。

僕はまだ覚醒してないのでどういった力があるのかもしらないし、覚醒しなくていいとも思っている。

血族のことは話さないことにしている。

自分が化け物だと思ってしまうし、必要のない話だ。

雪坂もそんな話されるのもいかがなものかと思いたくなるものだろう。

世の中には他にも楽しい話が転がってる。

 
「神崎さん?」

「え?」

考えにふけっていた僕の目の前には雪坂の顔がある。

あまりにも近かったので後ろに頭を引いて樹にぶつけた。

「いって!」

「大丈夫ですか?」

「痛いけど、そんなに重症でもない」

「大事にならなくて良かったです」

そういって笑顔のまま顔を離した。

「すごく考えてたようですが、どんな難しいことを思考していたのですか?」

「大したことじゃないよ。雪坂は毎日ここにきて飽きないか?」

「飽きたのでこないと子供じみたことはしたくありません」

「飽きてるのか」

「それはまあ、ないとは言えません」

「じゃあ、何で来る?」

「前に申し上げたとおりですが、待ってるんですよ」

「そ、そうか」

二度も同じ事を言わせてしまったことに少し悔いる。

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