夜獣-Stairway to the clown-
「本当の名前とか」

「そのようなことを知りたいのですか?」

「言っただろ?探究心だって。嫌なら答えなくていいよ」

「嫌ではないです」

困っている素振りを見せるが、決心をしたような顔になる。

「そんなにかしこまる必要なんかないと思うけど、教えたくないなら本当にいいんだぞ」

さらに少し考えたような顔になったが、口からぽろりとこぼれたようだった。

「ラヴィヌスです」

どこの国にもいなさそうな名前だ。

この星の人物じゃないんだからそれもそうか。

「意味とかあるのか?」

「愛し続けるという名前で付けられたらしいのですが、本当かは定かではないです」

「大きな意味をもってるな」

「そこまで出来るほどの愛を所持出来ているかはわかりません」

「持ってると思うけどな」

「え?」

「一人の奴をずっと待ってるんだろ。十分すぎると思うけどね」

「そうですか」

さっきまで硬かった顔の筋肉も緩んだようだった。

「大変だろうけど通じると思う。確証はないけどな」

「ありがとうございます。そのようなお言葉を頂けるなんて私には勿体無いです」

「そこまでの礼は必要ないんだけどな。月並みだし」

「言われるのと言われないのでは違いますから、言われただけでも私には身に余るほどです」

少し会話も止まり、窓の外を見ていた。

会話が止まっても苦になることはない。

雪坂のほうも何か考え事をしているようであり、会話がなくても気にしていないようだった。

夕子は今頃どうしているのだろうか。

乾と一緒にいるのかもしれない。

半年も経ったんだし、それなりのこともあったかもしれない。

若いんだからそれくらいあっても当然か。
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