夜獣-Stairway to the clown-
夕子のことは諦めたんだし、暗くなっても意味がない。

この先ずっと望みのないことを望んだとしても時間の無駄である。

夕子のことを考えるならば、今目の前にいる雪坂のことでも考えてたほうが有意義かもしれない。

考え切り替えようとしたところで視界は寂しい風景から明るい風景に変わっていた。

自分の町に帰ってきたという実感がありほっとする。

時間がそこまで経ったとは思えないけど、秋に入ったせいか日が落ちるのも早くなっていた。

都会に変わってから家の前まであっという間についてしまった。

「着きました」

「早かったな」

「結構なスピード出してたようです」

「それでこの安定性か」

「リムジンとなるとそれなりの技術は必要になります。彼はその技術をどこまでも高めたのです」

彼というのは運転手のことだろう。

「安全運転のほうがよっぽど嬉しいけど、でも、早くつくようにしてくれたんだし文句はいえないな」

「ふふ、彼も腕を披露したかったのでしょう」

「そうか」

自分の力を誇示したいというか、人はそんなものなのかもしれない。

それが一般的な力ということ限定だろう。


「また明日な」

「お元気で」

笑顔とともに車が僕の前から走り去ってしまった。

残った僕は暗くなっていく世界から逃れるように、家の中へと入る。

家に入ると誰の靴もなかった。

アキラは春休みも終わり夏休みも終わり大学に行っている。

この時間まで帰ってないとなると合コンでもやっているのかもしれない。

彼氏がほしいなんてこと言ってた思い出もある。

アキラの性格と容姿ならすぐにでも出来るだろう。

「静かでいいか」

TVの音も聞こえない家は寂しく感じられた。
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