夜獣-Stairway to the clown-
雪坂が来ているかどうかは学校の前にあるリムジンで判る。

今日もリムジンが先についているということはもう五組の教室にいる。

焦っていたのか、早く五組に行きたかった。

靴を履き替えると、五組のほうまで走っていく。

途中、夕子の姿も見えたが、乾と一緒に廊下で話していた。

拭いきれない感覚が胸にまとわりついており、話しかけようとは思わない。

そちらを向かず目をそらして、二人の横を通り過ぎた。

その時、乾の嫌な視線を感じたような気がする

五組につくと自分の横の席に目をやった。

そこには女子と話している雪坂の姿がある。

会話の邪魔はしたくないのだが、こうなってくると話は別である。

このまま放置しておくとやっかいなことになるに違いないと思う。

自分の席に鞄を置いて、時計を見る。

HRが始まるまでまだ時間に余裕があった。

横を見ると、笑顔で会話をしている雪坂がいる。

「どうしたんです?」

どう切り出すかと迷っていると、雪坂から声をかけてくる。

「え?」

他の女子は怪訝そうな顔で僕を見ていた。

「私の顔に何かついてます?」

迷っている間、雪坂の顔を延々と見ていたのかもしれない。

女子の嫌な視線の意味もわかるというものだ。

しかし、これできっかけがつかめたというものだろう。

「何もない。悪い。ちょっと気になることがあって」

「気になることですか?」

「昼休みにいつもの場所にきてくれないか?」

朝の時間に行くのは雪坂の授業の邪魔になるだろうと諦める。

「行くつもりでしたから構いません」

「悪いな」

僕は落ち着いて自分の席へと着席した。

気づいたときには女子と雪坂はまた会話を再開している。

その時の雪坂は色々とからかわれていた。
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