Frist time



「宏と翔くんって、本当に仲良しっていうか、気が合うんだね。
なんであたしにりんごジュース?」


「いや、運動後ってビタミン取るといいっていうし・・・なんとなく、それかなって。」


「あーもう、やめてよー。」


そう言ってさらに泣き出す梨華ちゃん。あーやべえ、俺。なんでこんなことになっちゃったんだ。
どうかこの場面を誰にも見られませんように。

少し泣いて落ち着いたのか、梨華ちゃんは零れた涙をジャージの袖の袖で軽く拭いてから話し始めた。


「宏もね、毎回これを買ってくれたの。陸上部のマネージャーって炎天下の中ずっと立ってて、選手以上に水分確保できないから、水分もビタミンも取れるように運動後は必ず果汁100%飲むこと!とかってさ。

だから、これが目の前に出てきてフラッシュバックしちゃって。ごめんね、今日はこんなつもりじゃなかったんだ。」



梨華ちゃんの話を聞いてどうして泣いたのか、やっと納得した。気が合うって言ってた意味も。
確かに俺たちはかなり気が合うけど、こんなとこで発揮するとは・・・


でも、これで聞かなくてもわかった。梨華ちゃんはまだ宏のことが好きだ。そして宏も。


「宏さ、なんて言ってたの?・・・その、別れる時。」


「あーえっと、もう付き合えない、とかで、詳しい理由は、分かんない・・・」



やっぱり俺の思った通り、あいつは梨華ちゃんに本当の理由を言ってなかった。言ったら、梨華ちゃんが宏のことをふっきれなくなるとか思ったからじゃないかな。

宏の考えていることが手に取るようにわかったけど、これを俺が伝えたら意味ないし。


俺が掘り返したせいで、また涙が出てきてしまったようで、ジャージの袖でごしごしとこする梨華ちゃん。色白なのにジャージで拭いたせいで目元が赤くなってる。あー痛そうだし、かわいそう。



「あんま、こすんなよ。」




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