Frist time
「あー風気持ちいいなー。」
「ほんとなー。あー走りてえ。」
「でた。陸上バカ。」
「うるさい。」
そう言って俺の肩をばしっと拳で殴る宏。宏とするこのくだらないやり取りが好きだ。テンポよく会話が進むところとか、この雰囲気とか。めちゃくちゃ楽しい。
宏も陸上部に所属していて、しかも滅茶苦茶速い。顔良し、性格良し、運動神経もいいとか、どんだけスーパーマンなの。
「俺、さっきの子と付き合うことにした。」
「・・・は?」
俺が今聞いたことは、現実なのか?目が点、じゃなくてこういう時はなんていうんだっけ。あ、寝耳に水?いやいや、そんなことはどうでも良くて。本当に何を言ってるんだよ、こいつは。
俺がかなり動揺しているのが伝わったのか、
「ははは、そんなにびっくりしなくても。」
申し訳なさそうに宏が笑った。いやいや、笑ってる場合じゃないんだけど。
「なんかさ、似てて、雰囲気が。・・・梨華に。
俺から振ったのに、このままふっ切れないとか、別れた意味ないなと思ってたから。
この子なら、大丈夫かも、って。」
そう言って笑う宏の横顔はすごく寂しそうで。なんて言葉をかけたらいいかわかんなかった。
「・・・お前が決めたなら、いいけどさ。
でも、正直、複雑だわ。」
「はあ?それお前に言われたくねえよ!」
「・・・確かに。」
はははと2人で笑いあって一呼吸置いてから、彼女になった子について教えてもらった。隣のクラスの子で、体育で一緒になった時に宏と話して好きになったらしい。まったく、これだからモテるやつは。
「明日から、荒れるな、学校中が。」
「・・・そんなか?」
どんな子からの告白も断ったのに、いきなり彼女を校内で作っちゃったらそらね。宏の噂でしばらくはもちきりだろうなと確信した。
あと、梨華ちゃんも、荒れるだろうな。