Frist time
宏を連れていつものベランダに向かう。
宏は机に寄らずにベランダに来てくれたから、自分の荷物をどさりと置いてその後に自分もどかりと腰を下ろす。
俯きがちな宏の姿をまっすぐに捉えて、
「ごめん、宏には一番初めに報告しなきゃいけなかったのに、あんな風になっちゃって。」
思い切り頭を下げる。それくらい申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
大事なことを又聞きするって、本当に気分良くないと思うから。
「よかったな!」
少しくらい嫌味を言ってもいいのに聞こえてきたのはやっぱり宏らしい、優しい言葉で。
宏の言葉を聞いてゆっくりと顔を上げると、穏やかな顔をした宏と目が合った。
「梨華と、付き合うことになったんだろ?」
宏の真っ直ぐな視線を逸らさずにコクりと首を縦にふる。
「ほんと、よかったじゃん。
翔なら梨華のこと幸せに出来る。自信持って?」
「おう。」
さっきよりもしっかりと頷いた。
すると宏はさっきまでの穏やかな顔から急に真剣な顔になって、俺の肩に拳をぶつけてきた。
それが思っていたよりも力が籠っていて思わず片目をつぶって顔をしかめる。
「お前ら幸せになんないと、許さないからな」
「え・・・?」
真剣な顔が今度は急にぱっと明るくなり、宏がニカッと笑った。
きっと、宏は梨華ちゃんを俺に取られて苛立っている。でも、もう宏には遠慮しないって決めたから。
付き合ったことに対して謝ったりなんかしない。
宏に対して意地になっていた部分もあったけど、この時の俺は少なからず有頂天になってたんだよな。
だからこの質問が宏にとってどれくらい辛いかなんて考えもせずに口から出た。
「なあ、宏。
お前彼女とはどーなってんの?」
一瞬、宏の笑顔が消えた。でも直ぐに笑って、
「大丈夫だよ。」
って返事が返ってきた。
だから、大丈夫なんだと思っていた。なんだかんだ、宏が引っ越す時までは一緒にいるんじゃないかなって。
それに、そう思いたかったっていうのもある。せっかく自分が上手くいったのに、宏が彼女と別れたら二人はまた元に戻るんじゃないかって考えがよぎるから。
でも宏たちが別れたのはこの後すぐのことだった。