短編‡よこたわるくうき。
げふげふ。
咳をすると、のどが切れてしまいそうだ。
ひえぴたをおでこに貼り付けながら、アキラは枕元で耳障りな音を立てるケータイに手を伸ばした。
会社は休んだ。
“夏風邪は、なんとかが引くって言うけどな”
「うるさいなぁ……もー秋だよ。9月に入ってる」
ケータイの向こうから聞こえてきたのは、からかい混じりの友人の声だった。
“ああ、なんと残暑の厳しいことか。本日も真夏日だ”
「はいはい。そーですねぇ……」
反撃の言葉も出なくて、アキラはベッドにぐったりとうつ伏せた。
変化を感じ取った友人は、少しだけ気遣わしげな声を上げる。
“おいおい、けっこうダルそうだな。大丈夫か?”
「だいじょーぶじゃない。死ぬかも」
“それだけ軽口叩けりゃしばらくは死なねぇな”
「いやいや、マジで死にますって。いまだかつてこんなダルかったことないもん」
“はいはい。じゃあ、今日の帰りに寄ってやるよ。なんか欲しいもんあるか?”
「…………ナタデココヨーグルトと飲み物」
“わかった。じゃあな”
通話が切れて、ちょっとだけ寂しくなった。
病気になって心細くなるなんて、今までなかったことだ。
アキラはちょっとだけ顔をあげて、窓を見た。
いい天気。
洗濯物もすぐに乾きそう。
さっきも思った。
だから、洗濯機がごうんごうんと音を立てている。
ごうんごうんごうんにゃあ。
ごうんにゃあごうんごうんにゃあ。