短編‡よこたわるくうき。
オムライス。
「それが、まさか……なぁ」
食卓を挟んだ向こう側。
オムライスをうまそうにほおばる少年を見て、アキラは溜め息を吐いた。
それに気付いて、少年ことトモヒロは口を開こうとする。
「口ん中にモノ入れたまま喋んなよ?」
先回りして釘を刺すと、トモヒロは急いでオムライスを飲み込んだ。
そして、あらためて口を開く。
「なんスか、その溜め息は!」
ああ、注意される前に言おうとした言葉のままだから、いろいろとタイムラグが生じてしまうじゃないか。
そんなことを考え、アキラは苦笑いしながら答えた。
「……いや、べつに。ただ、よく考えたら『偶然』って漢字も書けないようなヤツだったんだと思ってさ」
「あ、また馬鹿にしてる! じゃあ、アキラくんは『ぐうぜん』って漢字で書けるの!!?」
「普通に書けるけど?」
あっさりと受け流すと、トモヒロは唇を尖らせた。
この男は馬鹿な大型犬のようだと、アキラは常々思っている。
この馬鹿な大型犬こそ、アキラの想い人「猫越しのお隣さん」である。
いや、想い人であった、と言うべきだろう。
あのメモの後、ひょんなことから「猫越しのお隣さん」の正体を知ってしまったアキラは、それはそれは落ち込んだものだ。
なんだかんだあり、いまでは(一応)親しい友人として付き合っている。
よく遊んだりもするし、今日のように勉強を見てやることだってある。
驚くべきことに、トモヒロは高校生なのだ。