短編‡よこたわるくうき。
「あのな、せめて『偶然』くらいは書けとけ」
「……漢字は苦手教科だから」
「ト・モ・ヒ・ロ・くん、漢字なんて教科はありません。それに……」
すっと息を吸って、アキラは一息に吐き出した。
「お前が苦手なのは音楽と体育以外の全科目だろ!!」
暫くの沈黙の後、トモヒロは拗ねたように言った。
「まぁー、そぉっすけどぉ」
「なんのためにここにいるんだ?」
「はい、アキラくんに勉強を教えてもらうためっス」
「だったら、さっさと食って準備しろよ」
「はぁーい」
返事をしながら、トモヒロはぷっくりと頬を膨らませた。
身長が2メートル近くある男がそんなことをしても、可愛くもなんともない。
なんせトモヒロは、視線だけで熊をも射殺せるんじゃないかというほどのコワモテなのだ。
不思議なことに、それがなんだか女の子には人気らしい。
いわく、「ワイルドでステキ!!」なそうな。
でもアキラは、それよりもこう思うのだ。
スーツを着て、眉間の間のシワを絶やしさえしなければ、カタギじゃない人間に見えるんじゃないだろうか。
と。