短編‡よこたわるくうき。
春雨坦々麺。
「そう思うことにしたんじゃなかったのか?」
「そう思うことにしたんだけどさぁー」
「そう思うことにしたんだったら、そう思っとけ」
一刀両断。
とりつく島もない。
アキラは隣でカップ麺をすする友人に、恨みがましい視線を送った。
入社式のときからなぜか気が合い、数年来の付き合いがある友人だ。
アキラの真剣な目に、友人は肩を竦めた。
「オーライ。わかったよ、話の腰折って悪かったな。続けてどうぞ」
いささか芝居がかった言い方をする友人をもう一度にらんでから、アキラは溜め息を吐いた。
「窓がね、あるんだ」
「ほうほう。窓がね」
「俺の部屋、角部屋でさ。ふたつあるんだ。正面と、左に」
「なるほどなるほど」
「んで、左隣にでかいマンションが建ってるわけ」
「わかった! そのマンションのせいで、日照権が侵害されてるって言いたいんだろ。無理無理。そんな訴えすぐに棄却されるね」
自信満々に言い放って、麺をひとくち。
スープもひとくち。
アキラもはるさめ坦々麺を割り箸でかき混ぜて、ひとくち食べた。
ああ、おいしい。
「また坦々麺かよ。好きだなぁ」
「まぁ、うん。好きだよ」
実は『ホンモノ』の坦々麺を食べたことがないというのは内緒だ。