短編‡よこたわるくうき。
メザシ。
にゃあ。
アキラがあたりをきょろきょろと見回しているのは、つまりそういう声が聞こえたからで。
窓の外に黒い影を見つけたのは、数秒後だった。
あちらの窓とこちらの窓の間のブロック塀の上に、黒い猫が座っていた。
猫はアキラの顔を見て、もう一度にゃあと鳴く。
そのかたわらには白いトレイが置いてあった。
「エサくれってか」
呆れたように呟くと、猫は開き直ったと言わんばかりににゃあにゃあ鳴き始めた。
どうやらお目当てはアキラの夕食らしい。
トレイを準備したのはあちらの住民だろう。
だったら、あちらにねだればいいじゃないか。
そう思いつつも、アキラはメザシを3匹ほど焼いてやった。
数分すると、向こうの部屋の電気がついたのがわかった。
自分の分の食事を口に運びつつテレビを見ていたアキラの耳に、窓が開く音が聞こえた。
思い出してみれば、その音は毎日していたような気もする。
そして今日は、キャットフードを皿に入れるカラカラという音は聞こえず、メザシを食べる猫を撫でている気配だけがしていた。
(そういえば、野良猫にごはんあげてもいいんだっけ……?)
そんなことを考えながら、アキラはメザシを頭からばりばり食べた。