短編‡よこたわるくうき。
けして運動が苦手なわけではない。
むしろ、体育の授業は得意科目のひとつだった。
学校生活から離れたいまは、そんなこと自慢の種にもならないが。
「俺はアンタと違って、無駄なお肉がついてませんからねー」
筋肉がつきにくい体質であると同時に、太りにくい体質でもある。
「あー? なんだよ、俺が太ってるとでも言いてぇのか?」
「うわっ、酒クサッ!!」
「あぁー? 文句あんのか?」
「絡みすぎだから! もう、いいからちゃんと歩いてよ」
叱りつけるような口調もものともせず、友人は笑いながらアキラに体重をかけてきた。
あと少しでアキラのアパートだ。
明日はふたりとも休みなので、今日はアキラの部屋に泊まることになっていた。
鍵を開ける間も、ふらふらの友人が倒れてしまわないかと気が気でなかった。
部屋に入ると、友人はネクタイとベルトを抜き取り、アキラのベッドに倒れこんだ。
「ちょっとー! シーツが酒臭くなるからやめてよ! 布団敷いとくから顔洗ってきて!」
そう言うと、友人はおとなしく洗面所へむかった。
アキラはそのすきに押入れから予備の布団を敷く。
もう大分暑いので、上掛けはブランケットでいいだろう。
むしろ、バスタオルでもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、ふとあちらの部屋の電気がついていないことに気づいた。
帰ってきていないのだろうか。
いつものように小分けの猫エサを手に、アキラは窓に近づいた。