短編‡よこたわるくうき。


けして運動が苦手なわけではない。
むしろ、体育の授業は得意科目のひとつだった。

学校生活から離れたいまは、そんなこと自慢の種にもならないが。


「俺はアンタと違って、無駄なお肉がついてませんからねー」


筋肉がつきにくい体質であると同時に、太りにくい体質でもある。


「あー? なんだよ、俺が太ってるとでも言いてぇのか?」
「うわっ、酒クサッ!!」
「あぁー? 文句あんのか?」
「絡みすぎだから! もう、いいからちゃんと歩いてよ」


叱りつけるような口調もものともせず、友人は笑いながらアキラに体重をかけてきた。

あと少しでアキラのアパートだ。
明日はふたりとも休みなので、今日はアキラの部屋に泊まることになっていた。


鍵を開ける間も、ふらふらの友人が倒れてしまわないかと気が気でなかった。

部屋に入ると、友人はネクタイとベルトを抜き取り、アキラのベッドに倒れこんだ。


「ちょっとー! シーツが酒臭くなるからやめてよ! 布団敷いとくから顔洗ってきて!」


そう言うと、友人はおとなしく洗面所へむかった。
アキラはそのすきに押入れから予備の布団を敷く。

もう大分暑いので、上掛けはブランケットでいいだろう。
むしろ、バスタオルでもいいかもしれない。

そんなことを考えていると、ふとあちらの部屋の電気がついていないことに気づいた。

帰ってきていないのだろうか。

いつものように小分けの猫エサを手に、アキラは窓に近づいた。

< 7 / 20 >

この作品をシェア

pagetop