短編‡よこたわるくうき。
がらがらと窓を開けると、白いトレイの横に猫缶が置いてあった。
昨日の夜まではなかったその猫缶の下に、白い紙がはさんである。
どうやら、本日のエサやりは終了しているらしい。
アキラは猫エサを足元において、白い紙をそっと抜き取った。
『明日から1週間出かけることになりました。こんなことたのむの変かもしれませんけど、ネコのごはんよろしくお願いします。』
キレイではないが、丁寧な字でそう書いてあった。
白い紙に、ピンクのペンだ。
ずっと、猫を通してつながっていたけれど、こうやってちゃんと意思を交わすのは初めてのことだった。
なんだがいやにわくわくしてきて、アキラはいつの間にかメモ帳と水色のペンに手を伸ばしていた。
『わかりました。旅行でしょうか、気をつけて行って来てください。』
短い文章。
けれど、なるだけ丁寧に。
アキラはそのメモを折り曲げて、猫缶の下に差し込んだ。
あちらから、はさんであるのが見えるように。
しばらくすると、あちらの部屋に明かりが点った。
手を伸ばして、窓をノックする。
気付いたのか、人影が近づいてきた。
アキラは慌てて窓を閉める。
あちらの窓が開く音がして、そしてちょっとしてから閉まる音が聞こえた。
アキラはゆっくりと窓を開けて、猫缶を手に取った。
メモはなくなっていた。
――――むずがゆい。
歯の奥のほうが、むずむずする。
そんな感覚を、知っている。
そういえば、友人が一向に戻ってこない。
アキラが慌てて洗面所に向かうと、酒臭い男は床に寝転んでいびきをかいていた。
鼻をつまんでやると、ふごふご言いだして、そして飛び起きた。
きょろきょろとまわりを見る友人に、アキラは思い切り笑った。