十人十恋-じゅうにんとこい-
「靴、どうしよう…」
「鍵はアイツらが持ってたし…倉庫の中、開くかな…?」
僕は、体育館倉庫に戻って、アイツらがいないか、確認した。
そして、体育館倉庫の扉を開けようとした。
鍵はかかってなかったみたいで、本当に紗江ちゃんの靴があった。
「よかった…、靴が見つかって…ありがとう、宏一くん」
そして、紗江ちゃんは僕の前で、泣き崩れて、僕は彼女の背中をさすることしか出来なかった。
ここで抱きしめた方が良かったかもしれないけど、
そんなコト、出来なかった。
する勇気が無かった。
「お、落ち着いた…?」
「うん。でも、色々ありすぎてよく分からないけど…」
「そうか…」
ものすごくドキドキする…
「宏一くんは、私のどこが好きなの?…やっぱり、外見?私の顔?」
「そ、それもあるけど、さ、紗江ちゃんって人が嫌がること、進んでするところも好きになった」
「人の嫌がること?」
「うん。ゴミ出しとか、花壇の世話したり、クラスの委員長になったり…」
「他の人には嫌がることかもしれない。でも、私にとって、人の役に立てられるなら、嬉しい。だから、私は嫌じゃない」
僕は笑顔で答えた。
「そうか。僕は紗江ちゃんを好きになって、良かったと想う」
その時、紗江ちゃんは赤くなって、うつむいた。
「ありがとう…。今日は、助けてくれてありがとう」
紗江ちゃんはうつむいて、髪の毛で顔を見せられないようにした。
「他の人に泣いてるとこ、見せるの初めてなの」
「そ、そうか…」
紗江ちゃんは、髪の毛で顔を隠して謝った。
「中間テストなのに、無駄な時間を使わせて、ごめんね」
「そんなコトないよ。大丈夫だよ」
「あ、ありがとう。今日は本当にありがとう」
僕は、家に帰って、勉強をし始めた。
さっきの紗江ちゃんのことを考えると、ものすごくドキドキしてきた。
余裕のない紗江ちゃんをみるのは、初めてだったからだ。