十人十恋-じゅうにんとこい-
紗江ちゃんはしばらく、うつむいて歩いていた。

おでこを電柱にぶつけそうになった。

「好き、かぁ…」

と紗江ちゃんは一言言って、僕を見た。

「私、恋愛感情ってよくわからない。でもなんとなくわかったような気がする」

「私、宏一くんのこと、好きになったみたい」

紗江ちゃんは、髪の毛をくるくるいじり始めた。

「ぼ、僕も、紗江ちゃんのこと、好きだ」

「これって両思い…だよね…?」

「うん。彼氏、彼女になるってことだよな…?」

恥ずかしい…顔が赤くなっていくのがわかる気がする…。

「…付き合おう、紗江ちゃん」

「うん。私も宏一くんとずっといたい」

僕たちは、返る方向が別れるところまで、手を繋いで帰った。







「…あのね、宏一くん」

「何?」

「私を好きになってくれて、ありがとう」

「そんな、僕のほうこそ…あ、そう言えば、転校するかもって言ってたけど、どうなったんだ?」

「あぁ、再婚の話は白紙になったって。」

「そうか。良かった」

「何か、お父さんが病院に住んでるみたいなカンジになってるから、お母さんが『家に居ない夫と居ても仕方がない』って言って、断ったみたい」

「え?お父さん、入院してるの?」

「違うよ。お父さんはお医者さんだよ」







いつも、影から見ていた、僕の恋は終わった。

僕は、もう影じゃない。

でも、影でも良い。

シラカワ・サエに照らされているのだから。



影恋。-かげこい-、クロヤマ・コウイチと、シラカワ・サエの、場合。

おしまい。




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