リップノイズ

*目を開く (2)




春の昼下がりの心地好い日差しの下で、彼女を見た。
白くて柔らかそうだった。

それは死んだ母さんに似ていた。

鼻の奥がつんとする。涙が出そうだ。

初めて 女 というものにふれるのは大抵が助産師、看護師、そして母親。もちろん俺が初めて肺呼吸をした日なんて記憶にないが、たぶん母親は柔らかかった。

俺を産み落とした日も、壁にマジックで落書きしてしこたま怒られたときも、たいそうな難産で妹を生んだ日も、オヤジとの結婚が決まった日も、初めて一緒になったひも、

たぶん柔らかかった。


そんな母さんは柔らかさのかけらもなく死んだ。

彼女をみて、母親を思い出すなんて、マザーコンプレックスみたいだ。
いま、彼女は膝の上にいて、ふつふつと怒涛にわき上がってくる愛情

彼女の腹に腕を回す服の隙間から手を差し込む。
ああ、暖かい。

彼女は生きている。


「愛してるよ。」


だから、少し君の背中をかしてくれないか




"目を開く"




その日俺はさめざめと泣いた、生きて、俺といてくれてありがとう。生んでくれて、ありがとう。(20120202)
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