魂、いただきます
「今更何の話があるっていうの」

 高ぶる気持ちを押さえて、素っ気なく答えた。

 この気持ちはなんだろうか、怒りか、復讐心か、それとも……あたしはなにを期待しているのだ。

 宮乃は自分がこんなにも揺らぐとは思ってもみなかった。

「違うんだ。誤解なんだよ。昨日のあれは真由子が……宮乃も彼女のことは知ってるだろ。あいつは誰の別なく……」

「なによ。真由子に罪をなすりつけようっていうの。すべてあの娘が悪いって。いいえ、悪いのはあんたよ」

「だから、誤解なんだってば。話せば判るから、話しを聞いてくれよ」

「勝手に話せばいいじゃないの。あたしが聞くかどうかは別だけど。悪いけど、先を急いでるの。じゃあね」

 背を向けたまま歩き出そうとした宮乃の右腕が掴まれた。

「待ってくれ。あれは本当に……おれは今でも宮乃だけなんだ。お前が好きなんだ。でも、もう」

「ちょ、ちょっと止めてよ。恥ずかしい」

 宮乃はなんとか振り向くのを我慢して、掴まれた右腕を振り放した。

 このちょっとしたドラマに、興味本意で小さな人垣ができていた。

 人の色恋沙汰を端から眺めるのは楽しいものだ。

 宮乃は恥ずかしさから思わずうつむいて顔が真っ赤に染まった。
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