魂、いただきます
 それを口に出そうとしたとき、慌てるように悪魔が言葉を先制した。

「おやおや、もうこんな時間です。これではあなたとの契約を先に済ませたほうがよろしいですね」

「時間って。まだ30分も経ってない……」

 言いながら宮乃は、病室の時計に視線を向け、絶句した。

 カチリといやに大きな音を立てて長針と短針が12で重なった。

「そんなぁ、なんでもう12時なの」

「それはわたくしと会っていたからですよ。悪魔と話をするとあなた方の時間の流れは早まるのです。契約を交わしたときに気付きませんでしたか?」

 言われてみれば、確かにあの時、いつの間にか時間が過ぎていた。しかし、だからと言ってこれは納得がいかない。

 このままではあたしもサトシも魂を持っいかれてしまう。せっかく自分の本当の望みが判ったと言うのに……

 いったいどうしたら……

「では、約束通り、魂をいただきます」

 悪魔はクールに言うと、宮乃に右手を差し出した。

 そして、一歩近付く。

 頭の中が混乱の際に達した宮乃は、何もかもが嫌になり、無意識のうちに叫んだ。

「もういやっ!お願いだから、誰か全部元に戻してっ!」

「判りました。願いを受理します」

「へっ?」

 暗転。
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