月魄の罪歌
「あと十センチ高かったら……」
日向子は唐突にため息混じりに呟いた。
この行動は、別に今に限ってと言うわけではない。
四六時中、思い出しては呟くのだ。
……何故か。
言ってはなんだが日向子は運動神経が抜群にいい。
特に剣道は達人級だ。
運動神経が良くない人から見たら羨ましいだろう。
しかし。
だからという事だと語弊があるが、そう。彼女は実に―――背が低いのだ。
現在、彼女が毎日付けている『成長記録』によると、その身長は150㎝。
まぁ、中学生ならばこの身長は平均だろう。
………だが、いかせん彼女は『高校生』。しかも『三年』。
あと一年で大学生になる。
彼女がつい、ため息をついてしまうのも分かるだろう。
「あ~あ……ほッんと、もし願いが叶うなら「成長させてください」って頼むわ、私…」
彼女の望み。
それは「成長」。
他ならないほど切実だ。
しかし、「成長」にもいろいろな種類があるのを忘れてはならない。
彼女が望んで止まない「身体の成長」。
自分の持つ力が上がる「身体的能力の成長」。
そして、「心の成長」。
――――「心の成長記録」。
――それが、今からつづる物語の大きな要となる。