月魄の罪歌

「じゃあデ「ちょっと!!!見てアレ!!!」

遮ったのは言うまでもない。
ちっと舌打ちすると、佑哉は後ろを振り向く。
(文句いってやる!)

「おい、瑠璃姉ぇ!!遮んじゃ……ね……え?」

佑哉の声は徐々に小さくなった。
目の前に広がる光景が信じられなかった。否、信じたくなかった。

「キモッ!!何アレ!!近くに樹液でもあんの!!??」

佑哉の異変に気付いた日向子が後ろを振り返り一言。
前方に繰り広げられる現象。
それは、巨大な黒い塊が迫ってくるというもの。
目を凝らして見ると、無数の蝶々の群れらしいが、なまじ黒なだけにグロテスク。
しかも、正確な数は分からないが、一万は下らないだろう。
四人は驚きと気持ち悪さでしばらく固まっていた。

「……はっ!!ちょっ、逃げましょうよ!!このままじゃ、体中鱗粉まみれになるわ!!」

一番最初に気を取り戻した瑠璃が、近くにいた壱哉の腕を掴み、茂みに連れ込んだ。

「ヒナと佑哉も早く!!」

瑠璃は茂みから体を乗り出して、手を差し出す。
蝶々たちはすぐそばまで二人に近付いていた。
最早一刻の有余もない。
だが、日向子たちは動けなかった。

「どうしよう、瑠璃姉ぇ!!佑哉立ったまま気絶してる!!」

只でさえ虫嫌いの佑哉。
それが、約一万匹にもなる大量の虫を見て、気を保ってられる訳が無かったのだった。


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