月魄の罪歌

日向子は目の前の三人の背中を押しす。
辺りはもう夜に近いほど暗くなってきているが、きっと大丈夫だ。
もしかしたら、瑠璃の別荘の人たちが探しに来てくれてるかも知れない。
そう思って。

「いだっ!!」

一番先頭にいた佑哉が小さく叫び声をあげた。

「どうした?」

後ろにいた壱哉が驚いて問いかける。
佑哉は鼻の辺りを撫でながらくぐもった声で答えた。

「いや…なんか、壁にぶつかった時みたいな感じがして」

そう言い終わるや否や、瑠璃が物凄い速さで佑哉の隣に行った。
両手を空中でさ迷わせる。
しかし、まるでパントマイムみたいに掌は同じところを撫でていた。
日向子の頭に不吉な単語が過った。

「………一面に壁みたいなものがあるわ…」

何時もとは違う震えた瑠璃の声に、三人は青くなった。
壱哉はダッと花と木々の間の細い隙間に向かって走った。
右手は木々の方向に添えている。
時折左右にさ迷わせ、何かを確認しているようだった。
日向子たちは、壱哉がしていることが分かり、固唾を飲んで見守った。
こう言うのは二手に別れると、失敗してしまうと知っていたからだ。
二、三分経つと、壱哉の姿は巨大樹の幹に消えた。
姿が見えなくなり、三人は不安になる。
壱哉の名前を呼んでみるも、距離が遠すぎるのか、返答は無い。
それから、一、二分経ち、不安から焦りになり始めた頃、壱哉が巨大樹の幹から見えた。
三人はほっと、息をつく。
そして、行きと同じようにして帰ってくる壱哉を見守っていた。


壱哉が戻ってくると、その顔は絶望に満ちていた。

「一周回ってみたが…抜け道は無かった。どうやら完全に閉じ込められたみたいだ」
それを聞いた三人は、壱哉と同じ顔になった。
心なしか震えているようだった。
四人の間を静寂が支配する。
鳥が木から飛び出す音も、梟の鳴き声も、不思議と止んでいた。


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