月魄の罪歌



しばらくその状況が続く中、一番最初にそれを破ったのは佑哉だった。

「ごめん!!」

いきなりの謝罪に三人は驚いた。
視線を佑哉に向ける。

「俺が気絶なんてしなけりゃ、今頃帰れてたのに…本当…ごめんな」

佑哉は下を向いて、唇を噛み締める。
その姿が痛々しくて、日向子は嫌だった。
「誰だって嫌いな物はあるさ!!それより、脱出方法考えよっ!!」

日向子はにっこりと笑った。

「そうよ。しょげてたってしょうがないわ。私たちは今、ここから脱出する方法を考えなきゃいけないんだから!!」

瑠璃も日向子と一緒に笑う。

「ま、深く考えんなよ。気楽に行こうぜ?」

壱哉はニヤリッと笑って、手を頭にのっけた。

「っお前ら……!!」

佑哉は三人の優しさに、目尻を熱くする。胸が感謝の気持ちでいっぱいになった。
佑哉は三人に抱擁しようと飛び付いた。

しかし、寸前の所で避けられた。
地面にスライディングする佑哉。

「だから、夕飯のデザートよこせよ?」
「帰ったら私の実験台になんなさい」
「浮気バレた女の後始末よろしく」

そう言いながら三人はを黒い笑みを浮かべて佑哉を取り囲んだ。
佑哉は先程までの優しい笑顔から一変した事に驚く。
だが、内容が聞き捨てならない内容だった事を思い出す。

(日向子の要求はまだ良いにしても、瑠璃と壱哉の要求は怖すぎんだろ!!)

―――そう思うも、目の前で笑っている二人の目が完全に据わっていたので、何も言えずに震えるしかない佑哉だった。

でも、佑哉は思っていた。
三人の要求内容は、全て『帰る』事が前提だった。
罪悪感で一杯の佑哉に、『絶対無事帰れるから気にすんな』と言いたかったのだ。
あいつらなりの優しさなのだ。
きっと、そうなのだ。

一人、納得してうんうん頷く佑哉。
夏目佑哉はポジティブな男だった…。



< 17 / 19 >

この作品をシェア

pagetop