月魄の罪歌
しばらくその状況が続く中、一番最初にそれを破ったのは佑哉だった。
「ごめん!!」
いきなりの謝罪に三人は驚いた。
視線を佑哉に向ける。
「俺が気絶なんてしなけりゃ、今頃帰れてたのに…本当…ごめんな」
佑哉は下を向いて、唇を噛み締める。
その姿が痛々しくて、日向子は嫌だった。
「誰だって嫌いな物はあるさ!!それより、脱出方法考えよっ!!」
日向子はにっこりと笑った。
「そうよ。しょげてたってしょうがないわ。私たちは今、ここから脱出する方法を考えなきゃいけないんだから!!」
瑠璃も日向子と一緒に笑う。
「ま、深く考えんなよ。気楽に行こうぜ?」
壱哉はニヤリッと笑って、手を頭にのっけた。
「っお前ら……!!」
佑哉は三人の優しさに、目尻を熱くする。胸が感謝の気持ちでいっぱいになった。
佑哉は三人に抱擁しようと飛び付いた。
しかし、寸前の所で避けられた。
地面にスライディングする佑哉。
「だから、夕飯のデザートよこせよ?」
「帰ったら私の実験台になんなさい」
「浮気バレた女の後始末よろしく」
そう言いながら三人はを黒い笑みを浮かべて佑哉を取り囲んだ。
佑哉は先程までの優しい笑顔から一変した事に驚く。
だが、内容が聞き捨てならない内容だった事を思い出す。
(日向子の要求はまだ良いにしても、瑠璃と壱哉の要求は怖すぎんだろ!!)
―――そう思うも、目の前で笑っている二人の目が完全に据わっていたので、何も言えずに震えるしかない佑哉だった。
でも、佑哉は思っていた。
三人の要求内容は、全て『帰る』事が前提だった。
罪悪感で一杯の佑哉に、『絶対無事帰れるから気にすんな』と言いたかったのだ。
あいつらなりの優しさなのだ。
きっと、そうなのだ。
一人、納得してうんうん頷く佑哉。
夏目佑哉はポジティブな男だった…。